2011年スイス2大時計フェアレポート バーゼルフェア編 ― 2011/08/28 06:21
(これは2011年の1月、3月に開催されたスイス時計フェアに関するファッション業界誌「WWD Japan(ウイメンズ・ウエア・デイリー・ジャパン INFASパブリケーションズ発行)」掲載記事のベースとなった取材ノートの一部です。詳細をお読みになりたい方は同誌の5/16号 VOL.1633の「時計特集2011 スイス2大時計フェア:S.I.H.H. & BASELWORLD 総括『ルイ・ヴィトン』の“本気”は脅威になるか」をバックナンバーでご購入ください)
リーマンショック前の好景気再び! 落ち着きと自信を取り戻したスイス時計業界
フェアに先駆けて3月9日にスイス時計協会(FH)が発表した2010年のスイス時計産業の総輸出額は、前年比プラス22.1%の約162億スイスフラン(約1兆4,580億円※1スイスフラン=90円換算)。第4四半期にリーマンショックに見舞われながらも過去最高を記録した2008年の約170億スイスフラン(約1兆5,300億円)には及ばないものの、2007年の約160億スイスフラン(約1兆4,400億円)を記録した。不況から一転、好景気に突入したといっていい。この数字の通りに各国からの来場者で賑わい、関係者の表情や話しぶりには未来への自信が溢れていた。 印象的だったのは、取材した時計メーカーのCEOやプロダクトマネージャーが好景気なのに、今後の見通しに非常に慎重だったこと。急成長が続き業績好調の牽引車である中国市場への期待も控え目な発言の人が多かったこと。また、名門、老舗を問わず多くのウォッチブランドの新製品に過去の名作をデザインモチーフにしたレトロなデザインで、リーズナブルな価格で高品質なものが多かったこと。 ところで、今年の最大のトレンドは「クラシック=伝統的」を超えた「ニューエイジ・レトロ=新複古調」。具体的には、目の肥えた時計愛好家の間でスイスの機械式時計の黄金時代と言われる1950年代から60年代前後のものをデザインの基本モチーフに、現代的なリファインを施したモデルだ。復古調のモデルは1990年代に世界的な機械式時計ブームが起きて以来毎年のように作られてきたが、そのほとんどはコレクター向けに企画されたものだった。ところが今年のバーゼルフェアでは、復古調のモデルがコレクターではなく明らかに一般の消費者をターゲットに登場している。コレクター向けの場合は少々クセがあるデザイン、メカニズムが売りだったが、今年の復古調はシンプルな中3針モデルやクロノグラフが中心になっている。その上、価格設定も非常に良心的。しかもディテールの完成度や仕上げも抜群だ。 こうした商品企画が主流になった理由を開発担当者に尋ねると、世界的に消費者の「時計を見る目」が肥えたためだという答えが返ってきた。今は、ブランドならではの腕時計であることが大事。ブランドはブランドらしくしないと消費者に選んでもらえない。その方向を追求すると、過去の引き出しを開けて名作に学ぶことになる。すると新製品は必然的にレトロテイストなデザインになるのだという。確かに今、高級腕時計、特に機械式のモデルに人々が求めているのは「未来的」であることよりも「古き良き過去を彷彿させるもの」「時代を超えても愛せるもの」であることなのは間違いない。その結果がこの「ニューエイジ・レトロ」ブームなのだろう。とはいえ今年の新作モデルは「ニューエイジ・レトロ」なものばかりではない。シリコン素材のヒゲゼンマイやアンクルを使ったコーアクシャル脱進機を採用する新世代のクロノグラフムーブメントを搭載し、4年の品質保証を付けたオメガの新作ダイバーズや、機械式で1/1000秒計測を実現したタグ・ホイヤーのコンセプトモデル、これまでにないメカニズムの複雑機構の開発など、技術的な革新や挑戦もますます盛ん。そしてこうした先進的なモデルでも、価格設定は今や、びっくりするぐらいに良心的だ。これは文句なく歓迎である。 なお、今年のバーゼルフェアで最大のトピックは、世界トップのラグジュアリーブランド「ルイ・ヴィトン」の正式出展。その本気ぶりはプレスリリースの「時計業界で確固たる地位を占める」という文言と、初のミニッツリピーターモデルを始め、かつてない数の新作モデルが物語る。フェア直前に事実上の買収が決定したブルガリも含め、同グループが時計界でスウォッチ、リシュモンと肩を並べる存在になる日は近い。
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